落ち着こう。スティーブ・ジョブズはもういないんだ。
新型iPad発表についての記事の続きである。
ジョブズが古巣Appleに復帰した際に、まず着手したのは多すぎるラインナップの整理であった。
数多くの機種の発売を取りやめ、大幅に機種を絞り込んだ。
ろくにガジェットにもITにも詳しくない私が知っているほどなので、それなりに有名な話なのであろう。
そのことを踏まえたうえで、現状のiPadを見てみる。
iPad Pro12.9
iPad Pro10.5
iPad air3
iPad mini5
iPad 9.7
5モデルである。
ネットでの反応を見ていると、複雑すぎるとか、マニアではない私には何を買ったらいいのか分からないという声が多い。
このあたりは、率直な声なんだろうなと思うが、解せないのは、それなりにITに詳しそうな人による、ジョブズだったらこんな複雑なラインナップの構成はしなかったはずだという意見。
落ち着いてください。
ジョブズはもういないんだ。
ジョブズが古巣Appleに呼び戻されたときは、Appleはかなり厳しい状況にあり青息吐息でした。
ヘタしたら会社がつぶれそうな状況ですよ。
だけど、今のタブレット市場では、スマホ以上にAppleのiPadが一人勝ち状態なのです。
こういった売れに売れまくっている状況なら、幅広いラインナップを揃え、どの価格帯でも顧客を全部さらっていくというのは、非常に合理的です。
利益率が低い3万円以下の価格帯を除いては。
一方、ジョブズが復帰したときのように、会社が傾きかけているときにラインナップをフルにそろえてしまったら、どの価格帯でも全部競合に負けてしまう可能性が濃厚です。
会社が傾くスピードを加速するだけです。
そういうときには、商品構成をうんと絞って、少数の製品に全戦力を集中して魅力ある商品を作り、一点突破していくしかありません。
買っているときと、負けているときでは、戦い方は違ってくるわけです。
横綱と軽量級力士では相撲が全然違うようなものです。
自動車メーカーで言えば、トヨタがフルライン戦略をとって低価格の小型車から高級セダンまですべてを取りそろえるのと同じですね。
一方、追いかける側のメーカー、何番手かのメーカーは自分の強みのある領域に集中して勝負を掛けます。
現在、ジョブズが天国から戻ってきても、逸話になっているような行動をとるとはかぎりません。
ジョブズは、その瞬間瞬間で、最高のセンスを発揮して答えを出す人です。
自分の成功体験に頼ることはないでしょうし、我々の「ジョブズだったらこうする」という予測についても、気持ちいいぐらい裏切ってくれることでしょう。
ガジェットやITに詳しい人たちは、マーケティングや経営手法に関心が高く優れたリテラシーを持つ人たちが多いという印象があります。
当然、私なんぞよりも道理がわかっている人ばかりだと思います。
それでも、ことがあるごとにジョブズだったらと口をついて出てしまうのは、Apple愛が強すぎるゆえかもしれません。
だけど我々は、カリスマに頼らずに生きていくしかないのです。