「保育士や介護士の給与が低い理由はスキルがないから」とドヤ顔でいう残念な人たち

保育士や介護士の給与を上げなければいけないと提言されるようになって久しいです。

こういう話が出ると、したり顔で「スキルがないんだから給与が低くても仕方がない」みたいなことを言う人たちがわいてきます。

定番の反応です。
陳腐です。
脳内にそう反応する単純なアルゴリズムが入っているのかと疑いたくなるほどです。

こういう意見を目にするたびに「いい年して社会のことを知らなかったり経済学とか勉強していないと恥をかくんだな」と痛感させられます。

仮にこの手の意見が正しいとするならば、例えば保育業界でも、

誰でもできるスキルしか持っていない→希少性がないのでいくらでも人が集まる→給与が低く抑えられる

というミクロ経済学の教科書に書いてあるような流れをたどるはずです。

しかし、現実には、保育業界は万年人手不足で、募集をしても人が全然集まりません。

業界では、マッチングサイトやら人材派遣会社などをフル活用してでも保育士を集めようとしますが、それでも人は集まりません。

「そこまで人が足りないのであれば給与を上げればいいではないか?」と思うかもしれません。

しかし、そんな単純な話ではありません。

保育業界に流れるお金は、子持ち共働きの子育て世帯です。
多くの場合、そういった世帯では大金は出せません。

その結果、保育士の給与の原資が出せないのです。

構造的に、補助金に頼るしかありません。
国家なり地方公共団体の予算です。

予算については、多くの場合縦割りで、慣習重視、前例踏襲です。

近年、世間では「保育士の給与をもっと上げて欲しい」という声が増えています。
しかし、大幅に予算が増えることはなかなかありません。
保守の中では福祉の実現に対して比較的熱心で政治的リーダーシップを強く発揮する安倍政権の下ですら、事態は大きくは改善されていません。

ここで、少し話題を変えてみます。

医師の給与が高いのは、なぜでしょう。

「保育士の給与が低いのはスキルがないから」という意見をいう人だったら「医学部が難関で医師のスキルが高いから」とか言いそうです。

ワンパターンですね。
しかし、実際にはそんな単純ではありません。

医師の給与が高いのは、医療の国家予算が莫大だからです。

司法試験に合格した弁護士も、医学部+国家試験突破した医師に勝るとも劣らない難関をクリアしています。
医師同様にスキルは高いはずです。
しかし、平均収入は医師よりもずっと低いです。

医療の予算に比べて、司法への予算がずっと少ないからです。

医療保険制度で医療費の多くが賄われる医師とは違って、弁護士の収入の多くは依頼者に支払ってもらわないといけないので、医師ほどは収入が上がらないわけです。
要は、弁護士の場合、給与の原資が少ないわけです。

このあたりのことは、多少でも新聞を読んだり、高校生の公民程度の知識があれば容易に想像できそうなものです。

ただ、多くの日本人は、歴史地理の教養は豊かでも、公民の勉強はあまり好きじゃないんですよね。
公民の勉強には、歴史や地理ほどのロマンが感じられないからでしょうか。

 

なお、仕事の給与額がある程度構造上決まるとしても、能力が高い順に高い給与が取れる職種につくはずだという反論もありうるところです。

確かにそういう面もあるでしょうが、しかし、全部をその視点から決めるけるのは無理があります(往々にして、そういう断定が好きな人たちがいますが)。

例えば、保育士や介護士などの職種は、平均よりもサイコパス率が低いといわれています。

他者に優しくすることに喜びを感じる人の率が高いのです。

そういったことに想像が及ぶ感性が欠落していると、「収入が低い人は能力が低いから仕方なくその職に就いている」といった「簡単なアルゴリズム思考」に陥ってしまうわけですね。

 

ちなみに、高い収入を得ていても世間の憧れとなっているような人たちからこの手の発言が出てくることは、あまりありません。

どちらかというと、この手の発言をするのは、高い収入を得てはいても、虚業扱いされたりして世間からは賛否両論というポジションにいる人たちが多いという印象です。

そういう人たちは、「収入や待遇がそれほど良いわけではないが多くの人たちから感謝されている人たち」を批判したがります。

そのあたりの屈折した心理を分析していくと面白いかもしれません。