桜井誠氏の今後のさらなる躍進はありうるのか

都知事選で桜井誠候補が18万票を獲得し第5位だったことが驚きを持って受け止められています。

桜井氏と言えば、過激な主張でコアな支持者はいるものの、その主張に全く賛同しない部外者から見れば泡沫候補というかイロモノという扱いでした。

だから今回の結果には私も若干驚きました。

 

で、今回の選挙結果に対するリベラル側の反応はどうだったのか。

所詮数パーセントの支持しか得られていないと桜井氏を侮る楽観主義者もいれば、差別主義者を支持する都民がこれだけいるという事実に驚き、桜井氏がマイノリティに与える恐怖心は決して見過ごせないと憤っている人もいます。

 

もっとも、いずれの見解も、桜井氏が今後、50万票、100万票を得て第2位に躍り出たり、あるいはその先まで躍進することまで想定していないようです。

 

桜井氏を支持、あるいは桜井氏にシンパシーを感じている保守側はどうなんでしょうか。

今後桜井氏が総理や都知事になれると本気で思っているコアな支持者もいるのかもしれませんが本気とまではいかず、多分に願望の域を出ていないようです。

桜井氏が爪痕を残せたり問題提起ができるだけでも十分だと思っている人も多いように思います。

保守側の中でも手厳しい人たちは、桜井氏は政治的にはアマチュア同好会レベルととらえていたりします。

 

そもそも、桜井氏の見解に完全に共鳴する層は日本の中では多数派ではありません。

限界があります。

上限数に達したところで伸びは止まると考えている人がほとんどでしょう。

 

日本人の中には、外交や国防に対してそれほど関心がない人はたくさんいます。

中国や韓国に強く怒っている人よりも、そういう無関心層の方が圧倒的に多い。

したがって、桜井氏がそういった巨大な浮動層を取り込めるとまでは思っていない人が多いでしょう。

 

しかし、本当にそうなのか。

桜井氏に対する私自身の予測を述べます。

 

わたしは政治信条としてはどちらかというとリベラルですし、韓国政府、中国政府への批判はありとしても、政府への批判を超えて個々のマイノリティに対する差別言動はもってのほかだという立場です。

しかし、そんな私でも、桜井氏の大ブレイクは十分にありうると悲観しています。

桜井氏が今後、50万票、100万票獲得することは十分にあると思っています。

 

これは、山本太郎氏の躍進を見れば分かります。

数年前まで、山本太郎氏がここまでの支持を得ることを予想していた人は少数でした。

コアな支持者には申し訳ないが、今の桜井氏と大差ないイロモノでしかなかったはずです。

しかし、今回は60万票超です。

 

なぜ山本氏がここまで票をのばしたのか。

 

山本氏が大幅に支持者を増やした理由は端的に言って、経済でしょう。

山本氏が強く主張するようになったことでMMT理論を知った人たちが激増しました。

やはり経済を主張すると強いのです。

それも、他者の経済政策への批判という間接的な形ではなく、自らが経済政策へ取り組みたいという意欲を力強く主張するのが大事です。

経済政策の内容が正しいかどうかなどは普通の有権者には的確に判断はできません。しかし、候補者に経済に対する関心と意欲があるか、それとも無関心なのかについては感覚でわかるのです。

国民の生活を本気で心配してなんとかしようとしてくれているかどうかは分かるのです。

 

この点、立憲民主などはそもそも経済に関心がないパフォーマンス集団と化しており、国民にその姿勢が見抜かれてしまっています。

また、立憲民主などの旧来リベラル野党は緊縮経済にこだわり続け、再配分にはかなり冷淡でした。

「リベラル+積極的な経済政策」という組み合わせを主張する政治家が山本太郎氏以前には存在しなかったのです。

ここに山本氏がすっぽりとハマりました。

 

そもそも安倍総理が強かったのも経済が理由ですよね。

安倍首相の不祥事がこれでもかというぐらいに発覚してもなかなか支持率が落ちなかったのは、経済を語っていたからです。

 

山本氏がすごいのは、今までの支持層であったリベラル層の一部をあきらめてでも、大幅な脱皮を図ったことでしょう。

これはなかなかできることではありません。

 

この山本氏の戦略を桜井氏の陣営が採用したら、大飛躍の可能性が出てきます。

既に結果が出ている戦略を後追いで桜井氏の陣営が分析することで、数に限りがあるコアな支持者の枠を大幅に超える浮動層からの支持を得る可能性は大いにあると思っています。

 

排外主義ばかりを言われている桜井氏ですが、実は、経済政策も語っています。

桜井氏は経済的にはまさに左派という感じです。

消費税廃止の他、大企業や租税回避をする富裕層への規制、地方分権、子育て世代の優遇などを主張しています。

経済右派っぽい主張は、生活保護者への現物支給ぐらいでしょうか。

 

戦略的にはおそらくこれが正しいのでしょう。

ナチスドイツも大胆な再配分を行うなど経済政策を成功させたから、自国民からの支持がゆるぎないものになったのです。

戦前の日本の軍部も、既得権益層の利益をかなり削り都市労働者や農村の困窮者への再配分を積極的に行うことで支持を拡大していきました。

 

したがって、桜井氏が訴える経済政策が広く受け入れられた場合、排外主義を訴えただけでは得られない巨大な支持を得られる可能性があります。

 

もっとも今の桜井氏は、排外主義と同等の熱意を経済政策に対して持っているようには見えません。

また、今の桜井氏の支持者には「格差容認+自己責任」主義者もかなり多いですから、桜井氏が大胆な再配分への意欲を今以上に強く示す場合、桜井氏から離れていく支持者もいるでしょう。

生みの苦しみですね。

 

しかし、経済的弱者に憎悪を示す愛国主義者などというものは、ある意味、贅沢な思想的趣味を持つアッパーミドルですから、総数は限られています。

それよりも、生活は苦しく不安も大きいけれども日本人としてのアイデンティティーを大事にしたいと思っている層の方がはるかに数は大きいはずです。

彼らの方が圧倒的に数は多く、切実です。

 

そういった層は従来は安倍政権を支えていました。

しかし、現在の安倍政権は、ほぼ財務省の言いなり状態です。

財務省は国民への幅広い再配分などはもってのほかという立場です。

安倍さんも第二次政権発足時の様な大胆な経済政策は出来なくなっています。

その結果、今まで安倍さんが囲い込んでいた層がそのまま宙に浮いた状態になっています。

 

そこで、桜井氏が経済政策への意欲を前面に出し大胆な再配分を訴えることで、そういった層を狙い打てば、今よりもはるかに躍進してしまう可能性があるわけです。

 

例えば桜井氏が、高いアジテーション能力をフルに発揮して「国民を苦しめている諸悪の根源は財務省」などと財務省陰謀論を言い出し、国民がそれを受け入れ始めたとしたら・・・

 

これがリベラルにとって最悪のシナリオでしょう。

 

実際に、トランプは政治家としての経歴はなく能力も未知数だったのに「排外主義+経済的に見捨てられた白人労働者へのアピール」でまさかの大統領にまでなってしまいました。

トランプの主張の軸が今の桜井氏のように排外主義一本で、経済的に困窮する層へのアピールがなかったとしたら、大統領にもなれず「個性的な候補者だったね。」とか「爪痕は残せたよね。」で終わっていたことでしょう。 

 

今後、桜井氏が今までの支持者を大事にして手堅く行くのであれば、桜井氏が政治を大きく動かすほど大躍進する危険はそれほどないことになります(それでも世の中に不穏なムードを生み出し続けることには変わりありませんしマイノリティの方々にとっては不快かつ不安なはずですから軽視できませんが)。

 

さて、今後はどうなるんでしょう。

 

いろいろと言いましたが、一番高い可能性は現状維持でしょう。

桜井氏は既に少なくない支持者を得て一定の存在感と知名度を持っています。

桜井氏も戦略だのなんだのと小賢しいことを考えるよりも、自分が言いたいことを自由に述べている方が幸福なはずです。

今まで自分を支持してくれた人間関係を切り捨てていくことは、通常、ものすごいストレスを伴います。

ぶれずに一つの態度を貫く方が、手堅く支持を維持できます。

人間、大幅な変化や脱皮をすることは極めて難しい。

山本太郎氏のような人の方が珍しいのです(山本氏は小泉元総理と同じようなタイプで、情緒的な部分が乏しいのかもしれませんが)。

 

しかし、桜井氏が山本太郎氏のように、極めて戦略的に行動し本気で勝ちに行ったとしたら、これはもう、リベラルにとっては、今までとは比較にならないほどの脅威となることでしょう。

 

本当は私も、排外主義や少数者差別に対して毅然とNOを突きつける日本国民の良識を信じたいのです。

しかし、残念ながらそのような信頼を持つことはもうできなくなりました。

桜井氏が獲得した18万票という得票数は、良識への信頼を木っ端みじんに吹き飛ばすには十分すぎる結果でした。