やせ我慢と武士の情け

覚せい剤中毒で日の目を見なくなった元有名野球選手が、警察から抜き打ちで身体検査をされた時の様子が週刊誌の記事になっています。

記事によると、検査を受けている最中、この野球選手はぶぜんとした態度であり、身体検査が終わった後に警官の背中に中指を立てたとのことです。

売るためにデタラメなことを平気で書き散らすのが週刊誌ですから記事の内容自体が創作の可能性も高く眉唾感満載なのですが、この記事を読んで、「この元有名野球選手、全然反省していないじゃないか」という悪印象を持ってしまう人は多いでしょうね。

だけど、それが、覚せい剤からの更生にどれだけ悪影響を及ぼしてしまうことか。

そもそも、覚せい剤中毒から立ち直ろうという人たちは、日日、懸命にやせ我慢しながら生活しているわけですよ。

神妙に反省している時期もあるだろうけど、所詮は人間なんだから、自分なりに努力をしていても、上から「反省しているのか?」「どうせやっているんだろ」みたいな扱いをされたら、そりゃあ、イラっとすることもあるでしょう。

奇麗ごとばかりじゃないと思います。

イライラしていても、ちゃんと捜査に協力し、やせ我慢をしてなんとか自分のいらだちを抑えこんだわけだから、それで十分じゃないかと思うのです。

依存症とか中毒というものは、だましだましでも、一日一日をなんとか乗り越えて、そうやって泥臭く積み上げて更生していくものだと思うのですね。

そういった努力に対して、励まして応援するのではなく、馬鹿にして足蹴にするようなことをして、この週刊誌はいったい何がしたいのでしょう。

内心や本音は、人に残された自由な領域です。

無関係な野次馬の娯楽の対象などではありません。

更生しようとする本人から信頼されて内心を打ち明けられたわけでもなく、本人から依頼されたカウンセラーや専門家でもない他人が、土足で踏み入るべきではありません。

検査を受けている最中に、「内心ではイラっとしているだろうなあ」と感じられたとしても、表面上は見て見ぬふりをするのが武士の情けなんじゃないかと思います。