商品を発送しないヤフオクの出品者を訴えた話

商品が送られてこない

私がヤフオクを利用し始めたころ、5年ほど前の話である。
1万円弱の雑貨を購入した。
他の出品者よりも若干安かったが、出品者が仕事で忙しいので発送がひと月ほど先になるという条件がついていた。

「良い評価」が98%とかそのあたりだったので、特に心配することなく購入した。

しかし、発送予定日頃になっても何の連絡もない。
忙しいから忘れているのかな?と思って待っていた。
私は、自分からから催促するのはとても苦手な方なので、1週間ぐらい待つことにした。

それでも来ない。
出品者の評価欄を見ると、「詐欺」だの「商品が送られてこない」だの「この出品者を信用してはいけません。」「金返せ」といったコメントが並んでいた。

やられた。
出品者が最初からこちらを騙すつもりだったのか、あるいは、真面目に出品していたが途中から失敗して自転車操業になってしまったのか、それは分からない。
いずれにしても、普通に考えて、商品の発送も返金も期待できない展開である。

出品者にメールを出してみる

ダメもとで出品者にメールを出してみた。
文面は丁寧にした。

お忙しいところ恐縮です。
ご発送をお忘れではないでしょうか?

どうせシカトされるんだろうなと思っていたところ、約2週間後に出品者から返事があった。

大変申し訳ありませんが、今回は諸事情により、ご返金とさせてください。
よろしくお願いいたします。

たった2行である。

いつまで返金するのかメールには一切書いていないし、こちらの預金口座も聞いてこない。
返金する気がなく、適当に時間稼ぎをしているのが見え見えあった。

とりあえず、「返金はこちらにしてください。私の口座番号は以下の通りです」という文面のメールを出品者に送った。
2日間待ったが、何の返信もない。

気が進まなかったがあらかじめ知らされていた出品者の電話番号に電話をした。
何度かかけたが、電話に出ない。

だんだん腹が立ってきたので、「貴殿を裁判所に訴えますね。」とメールをした。

裁判所を頼ることにする

どうやって訴えればいいのかなど、見当もついていない状況であったが、とにかく腹立たしかったのだ。
実のところは、金額も大きくないし、あきらめることも考えていた。

一応、これでも法学部出身である。
相手の住所は分かっているので、何かできないか、一応調べることにした。

この手の返金請求は内容証明を送るのがオーソドックスな手段だ。
しかし、弁護士名で送ると数万円の費用が掛かる。
自分の名前で送っても、相手方は大してプレッシャーを感じることもないだろう。

支払督促という手続

すこし調べてみたら、どうやら「支払督促」という手続きがあるらしい。
裁判所から相手方に通知を送ってもらい、支払いを催促するのだ。

支払督促を相手が受け取ってから2週間何もしないと、裁判なしで相手の財産に強制執行をかけることができるのである。

ただし、支払督促に対して、期間中に相手方から異議を出されると、通常の裁判になってしまう。
そういう展開になった場合、弁護士費用を出して弁護士に依頼するのはコスト倒れになるので、自分自身で裁判に対応するか、支払督促を取り下げるのかを決めなくてはならない。

いずれにしてもちょっと面倒なことになる。

とはいえ、支払督促に相手がビビって返金してくれたらラッキーである。
相手が異議申し立てをした場合、どのように対応するのかについては未定のまま、とりあえず支払督促をしてみることにした。

支払督促申立書の書式を見つける

検索すると、「支払督促申立書」という書式と、「支払督促申立書」の記載例が容易に見つかる。
A4用紙にプリントアウトした。

他に、収入印紙500円と、1000円の切手が1枚、82円切手が2枚、はがきが1枚必要だった。
(当時と今では、用意するべきものが多少変わっているかもしれません。)
収入印紙の代金は、請求額が高い場合にはさらに高額になるが、10万円以下の場合には、一律500円で足りる。

請求する額は、振り込んだ商品の価格+かんたん決済の手数料(または振込費用)だけではなく、「申立書作成及び提出費用」として800円を別途請求することができるようだ。

申立書にはこう書いた

「支払督促申立書」の申立手続費用の箇所には以下の通り記載した。

申立手数料(印紙代) 500円
支払督促正本送達費用(郵便切手)1082円
支払督促発布通知費用  82円
申立書作成及び提出費用    800円
資格証明手数料         0円

私も出品者も法人ではなかったので、「資格証明手数料」は0円と書いておけば良いようだ。

申立手続費用欄には、これらを合計した金額である「金2464円」と書いた。

「支払督促申立書」の請求の趣旨は以下の通り書いた。「金9●●●円」は落札額+送料+かんたん決済の手数料(あるいは銀行等の振込手数料)の合計額である。

請求の趣旨
1.金9●●●円
2.上記金額に対する支払督促送達日の翌日から完済まで年5%の割合による遅延損害金
3.金2,464円(申立手続費用)

「支払督促申立書」の請求の原因については以下の通り書いた。
なお、債権者は私のこと、債務者は出品者のことである。

請求の原因

1.債権者は、債務者から、平成●年●月●日に「ヤフオク」というネットオークションで、●●という雑貨を●●●●円で落札し、「かんたん決済」というヤフオク公式の決済手段を利用して落札代金●●●●と送料●●円の合計、●●●●円を支払った。
かんたん決済の利用手数料は●●円であった。
これらを合計すると、金9●●●円になる。

2.上記雑貨は、落札日から約1か月後に発送される約束であった。
しかし、発送予定日を過ぎても商品は発送されなかったので、債務者に連絡をしたところ、返金希望の連絡があった。
債権者も契約の解除と返金に同意し、返金の振込先を伝えた。

3.しかし、その後も返金はない。
そのため、仕方なく、債務督促を申し立てるに至った。

4.以上より、債権者は債務者に対して、売買契約解除に伴う損害賠償請求として、請求の趣旨記載の金額を請求する。

私の場合には、形だけとはいえ、出品者から返金の申し出があったから上のように書いた。

しかし、仮に出品者から何の連絡もない場合には、こちらから出品者にメールを出して売買契約を解除しておかなくてはいけない。
メールの文面は、「速やかに商品を発送してください。発送されない場合には売買契約を解除します。」とでもしておけばいい。

その上で、請求の趣旨の2と3については、以下のような内容にしておく。

2.上記雑貨は、落札日から約1か月後に発送される約束であった。
しかし、発送予定日を過ぎても商品は発送されなかったので、速やかな発送をされない場合には売買契約を解除する旨通知した。

3.しかし、その後も商品の発送はなかった。
そのため、仕方なく、債務督促を申し立てるに至った。

支払督促申立書を簡易裁判所に提出

記載済みの「支払督促の申立書」にクリップで印紙、はがき、切手を止めて茶封筒に入れて、裁判所に郵送した。

郵送先は管轄の裁判でなければならない。
原則として、出品者の住所を管轄とする裁判所である。
相手方の住所がわかれば、管轄裁判所は簡単に検索できる。

もっとも、金銭の支払いについては自分の住所を管轄とする裁判所に送ることもできる。

オークションの出品者は、遠隔地のことも多いから、普通は自分の住所を管轄とする裁判所に送る方が何かと便利である。
裁判に移行した場合、自分の地元の裁判所で対応する方がはるかに楽である。
特に、相手方が遠隔地にいる場合には、相手は裁判所まで来るのが大変なので、相手方欠席のまま判決をもらうことができることが多いであろう。

だが、私は、不便と不利を承知で、相手方の住所を管轄とする裁判所に送ることにした。
同級生が地元の裁判所の職員になっていたので、こんなことをしているのが知られたらこっぱずかしかったからである。

提出した後の話

裁判所に申立書を送った後は、いろいろと思い悩んだ。
相手が異議を申し立てた場合、裁判になる。
裁判所は相手の住む地域なので、車で行っても、電車で行っても半日はかかる。
すでに、支払督促のために千数百円出している上に、電車賃も追加で、数千円ぐらいかかる。

もともと、1万円弱の買い物である。
どう考えても割に合わない。
出品者ののらりくらりした対応にムカついたので、勢いで支払督促を申し立ててしまったが、若干、後悔もしていた。

正直、出品者が異議を申し立てをしたら、こちらの支払督促を取り下げることになるだろうなという気がした。
一方で、異議を申し立てられたら、振り上げた拳を下ろすのもカッコ悪いし、腹立たしい気持ちがまた湧き上がってくるだろうから、損を覚悟で裁判をやり通すかもしれないとも思えた。

実際のところは、相手のリアクションを見てからでないと自分でも分からなかった。

解決!

しばらくして、裁判所から「支払督促発付通知」という書類が送られてきた。
文面は以下の通り。

平成●年(ロ)●●号
債権者 ●●●様

支払督促発付通知

債権者 ●●●
債務者 ●●●

上記当事者間の督促事件について、支払督促が、債務者●●●に対し、平成●年●月●日発付されました。
なお、この件に関する照会先は、当庁督促事件係 (電話 ●●ー●●ー●●)です。

平成●年●月●日
●●簡易裁判所
裁判所書記官 ●●● 印

ほぼ同時に、出品者からメールがあった。

返金しましたので、大ごとにするのは止めていただけませんか」という低姿勢なメールであった。
翌日、通帳を記帳すると、商品の代金だけではなく、申立にかかった費用まで含め、1万数千円が返金されていた。

拍子抜けすると同時に、ほっとした気持ちになった。

こちらも大人の態度で、「ご対応ありがとうございます。返金を確認しましたので、申し立てを取り下げます。」と返信した。

それに対して、出品者からは、お詫びと感謝のメールが返ってきた。

こうやってお金を取り戻すという方法もある。
費やした時間と労力をトータルで考えれば、割に合わなかったと思う。
ただ、だまされてしまったというイライラを込みで考えれば、やってよかった。
返金額以上に、やり遂げたことについて、気分が良かった。

余談と注意喚起

オークションとは無関係の話であるが、今回の話に関連して、一つだけ書いておかなければならないことがある。

ここ数年、裁判所からの通知を装った詐欺が頻発しているようだ。

こうした、一見して裁判所からの通知にみえる場合でも、以下の2つの種類の通知がある。

その1 無視したら大変なことになる本物の通知

その2 連絡したら騙されてしまうウソの通知

一番確実なのは、近所の交番や警察署に行って、警察官に相談することだ。

間違っても、送られてきた通知に書いてある電話番号をそのまま信じてはいけない。
ウソ通知に書いてある裁判所の電話番号は、ニセの電話番号だからだ。

民事訴訟管理センター」とか「法務省」を名乗る通知の場合も同じだ。

警察に相談する。

通知に書いてある電話番号にはかけない。

これが基本だ。 

 

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